1 シャルル・エミール・ジャック (1813~1894) 「春」 



福井豊(東京都荒川区)

1 シャルル・エミール・ジャック (1813~1894) 「春」 エッチング 紙
16.0×11.5cm 1840年代刻


木漏れ日の中、歩きはじめの幼い女児が母親に纏わり付きながら、餌をついばむ鶏と 雛に興味を示している。傍らには小型の飼い犬もいる。母子には光が当たっている。
影の父親は守るように母親の背後に左手を廻し、右手で鶏親子を指差して女児にその 動きを教えている。陽気のせいだろうか、それとも農作業の休憩なのだろうか、夫婦は ともに裸足で地面に立っている。人生を四季に例えれば、ちょうど今が春にあたるこの 若い夫婦は清貧の暮らしの中でも平和で暖かい一時の幸せをかみしめているようだ。
1840年、両親のいるブルゴーニュから版画家としてパリへ出た画家自身も1843 年30歳の時、パリで知り会った17歳の女性と結婚する。その頃に制作され、後に版 画集に入った1枚であろう。

2 シャルル・エミール・ジャック (1813~1894) 「鍋を磨く人」



福井豊(東京都荒川区)

2 シャルル・エミール・ジャック (1813~1894) 「鍋を磨く人」 エッチング 紙
10.0×16.0cm 1844年刻


屋外の石畳の上で若い女性が鍋を磨いている。背景は古い建物の外壁、そこには色々な 物が置かれたり吊るされたりしている。不明だが推定すると、牧草を刈り取る大きな鎌や それを掬い上げるフォーク状のもの、大きな樽、飼葉桶のようなもの、2つの縦長のミル ク缶のようなもの、大きな御玉、その他不明の容器が転がっている。左側の木製扉は何か の貯蔵庫、右側の扉は建物の出入り口か。外壁の右端にはその鍵が吊るされているように も見える。ここからは私の想像、この家は酪農などを営む中堅農家、建物はチーズなどを 貯蔵する納屋のようなものか。冬寒の露天で鍋を磨く女性はこの家の主婦や娘ではなく、 それを命じられた可哀相な召使いの少女か、などと勝手な妄想をさせてくれる1枚。
 

3 田能村直入 (1814~1907) 「高士観瀑昇雲図」



橋本昌也(京都市東山区)

3 田能村直入 (1814~1907) 「高士観瀑昇雲図」 淡彩水墨 半紙
24.0×33.0cm 1887年制作


この軸は、明治20年(1887年)田能村直入74歳の時に画かれた画帳を表装し たものです。小品の紙本淡彩画で人物描写と手前の木の表現は竹田の画風を引き継い だという硬さが残りますが、直入らしい筆致の強い作品となっております。

4 白瀧幾之助 (1873~1960) 「舞姫」



和田孝明(埼玉県川越市)

4 白瀧幾之助 (1873~1960) 「舞姫」 油彩 キャンバス 12F
制作年不詳


白瀧幾之助は、ヨーロッパに留学していた時にラファエル・コランに師事した。 我々の心に爽やかな印象で入ってくる穏健な画風にも、作者の真面目で実直な気持
ちが表れている。本作品に描かれているのは若い舞妓さんである。舞妓さんとしての 経験は、まだ日が浅いのであろう。はにかんだような表情がとても初々しい。
全部が彩色されておらず未完成のような印象をうける。けれどもなぜか、みている と心が暖まる作品である。

「舞姫」と後掲の「ガロチェンコ夫人」は、同じ大きさ(F12)で上半身を描い ている。並べてみると共通する点、異なる点等いろいろな発見があり、とても楽しい。

5 山本森之助 (1877~1928) 「婦人像」



佐々木征(千葉県船橋市)

5 山本森之助 (1877~1928) 「婦人像」 油彩 キャンバス
33.0×23.8cm 1914年制作


私は、森之助の<中禅寺湖の暮雪>を所蔵しているが、その後に出会ったのがこの<婦人像>である。私の調査では、森之助の手になる人物画は自画像を含め8点ほど と少なく、珍しさも伴い、即座に購入を決めた経緯がある。ちなみに女性の髪形や着 物は、今では見かけることのない1世紀前の髪形や着物模様で古いドラマの登場人物 を見ているようである。私の所蔵となった今の関心事は、婦人像のモデルは誰かとい う点に移っている。私は、今のところ確かな根拠となる資料を持ち合わせていないが、 ひそかに森之助周辺の人物か森之助夫人の可能性があるのではと妄想をめぐらしてい る。

6 武内鶴之助 (1881~1948) 「夜の教会」



小倉敬一(埼玉県さいたま市)

6 武内鶴之助 (1881~1948) 「夜の教会」 パステル 紙
20.0×26.5cm 制作年不詳


武内鶴之助は、明治末から大正初めにかけて渡欧し、主に風景画を描きパステル画 の名手と言われた画家である。
その作品は、一見すると何気ない平凡な絵であるが、対象の本質に迫る感性がある。 この作品は、英国滞在中のものと思われる。ここには、厳粛で聖なる雰囲気が漂っている。 夜空にきらめく星に、敬虔なクリスチャンだった今は亡き妻を想う。

7 小山周次 (1885~1967) 「井之頭池」



松尾陽作(千葉県我孫子市)

7 小山周次 (1885~1967) 「井之頭池」 水彩 紙
37.5×55.0cm 1925年頃制作 (推定)


この道に詳しい勉強家の人でさえ、この「小山周次」の名前をご存知の方は少ない のではないか!ましてや、同氏の絵(作品)を見るのは、初めてという方が多いので は・・ 第一法規出版の「日本の水彩画」の第2巻には、この「小山周次」が採り上 げられています。(第1巻は「大下藤次郎」)
先年、たまたまこの色鮮やかな水彩画を発見! 描写力、色彩感覚ともになかなかのものと、皆様、お思いになりませんか。

8 小絲源太郎 (1887~1978) 「三色菫」

 

中井嘉文(東京都練馬区)

8 小絲源太郎 (1887~1978) 「三色菫」 油彩 板 SM
1934年制作


数年前に画商がもちこんできたもので画面上に制作年とサインKOITOが書かれて おり、西洋の宗教画のようだねと言ったら光をあてて見てくださいと言うので spotlight を持ち出したところ、暗い画面から当時流行の三色菫が浮き上がってきました。
宗教画のような画面のサインも珍しいし私どもで引き取っておいた品物を今回お出し することにしました。できれば明るいライトの下でご覧になってくださった方がこの作 品の良さ、特徴が判るのではと思います。

9 熊岡美彦 (1889~1944) 「裸女」



堀良慶(千葉県柏市)

9 熊岡美彦 (1889~1944) 「裸女」 油彩 キャンバス
31.8×41.0cm 1928年頃制作


この作品は、第10回帝展(昭和4年)出品作の習作、滞欧時、ドランの影響を受け、 画風が一変しています。彼は、茨城県出身の洋画界の重鎮でした。神田神保町のM画 廊にこの作品が飾られていました。尊敬していました西荻のSさんが、3人ほどのコ レクターを前にこの作品について解説しておりました。Sさんは、在野系(非官展) のコレクターです。良い絵で欲しい作品だが手を出さないのはご自身のコレクター方 針の為です。熊岡が影響を受けたドランやマチスはフォーヴィスムの騎士です。Sさ んが欲しいというのは当然です。私は、未だ手を出さぬ皆さんの様子を見ながらそっ と画廊主のMさんに買うことを伝えておりました。帰ってから帝展出品作品で猫も描 かれている「裸女」を見て、この習作の方が良い絵ではないか!と密かに思ったもの です。
茨城県は私の第2の故郷です。石岡出身の熊岡天皇と呼ばれていた熊岡の力強い人 物画の作品を一点欲しかったのです。

10 萩谷厳 (1891~1979) 「裸婦」



太田貞雄(東京都八王子市)

10 萩谷厳 (1891~1979) 「裸婦」 油彩 キャンバス 4F
1924年制作


萩谷厳は、薔薇の作家といわれている。裸婦は珍しいのではないか。 萩谷はたびたび欧州に行っている。本作品は、1924年とキャンバスに書かれているところから、渡欧した年の翌年の作品である。 背面から見た裸婦像である。背中を画面一杯にくっきりと描き、乳房は微かに見える程度に抑えている。パリで初めて西洋の息吹を受け、若々しい気負いを感じさせる 作品である。先日、観に行った黒田清輝の展覧会で黒田に影響を与えた画家の作品と して立姿であるが似たような絵が展示されていた。このようなポーズは当時の流行な のかもしれない。