21 中村直人 (1905~1981) 「婦人像」 



金井徳重(長野県中野市)

21 中村直人 (1905~1981) 「婦人像」 グワッシュ 麻紙 12F
1959年制作


中村直人は、1952年藤田嗣治の誘いを受け、一家でパリに移住する。フランス に渡ってからはグワッシュを用い、麻紙を揉んだり伸ばしたりして描き加えていく独 自の技法を編み出した。画廊での個展は非常に高い評価を受け、「東洋人としてフジ タに次いでパリ画壇を征服しにきた男」という評判を得て盛況だったという。
この「婦人像」は、パリにて1959年作とサインがある。直人は戦前から彫刻家 としてこの道に入り活躍した。画面上の線の力強さ、外に向かって発散する強烈な力 は彫刻家としての造形からくるものだろうか。エコール・ド・パリと言われたこの時 代、A・モディリアーニも彫刻家であり、油彩画家としても数多くの名作を残してい る。この作品を見ているとモディリアーニを彷彿させる。

22 峰村リツ子 (1907~1995) 「女の顔」 



中村儀介(千葉県木更津市)

22 峰村リツ子 (1907~1995) 「女の顔」 油彩 キャンバス
45.0×32.5cm 制作年不詳


私は30年程前に、新宿の喫茶店で芸術新潮に載っていた小野幸吉の作品を何点か目 にして小野幸吉に魅せられ、その数年後には遺族の居る山形の酒田まで行くようになっ てしまった。そんな関係で仲間の高間筆子、惣七、峰村リツ子にも興味を持っていった。
最近になってこの絵を手に入れる機会に恵まれた。 この絵が洲之内徹の恋人「肥後静枝」だというのもおもしろいところだと思っている。

23 原精一 (1908~1986) 「リボンの少女」



佐藤裕幸(東京都品川区)

23 原精一 (1908~1986) 「リボンの少女」 油彩 キャンバス 6F
1947年制作


原精一は、人物を主な題材とし、動きのある人物表現を追究した。 本作品は縁衣に赤いリボンの少女を描いている。輪郭線を用いたフォーヴィスム的筆致と色彩に彼の絵の特徴がよく表現されている様に思う。

24 原精一 (1908~1986) 「落暉」 



佐藤裕幸(東京都品川区)

24 原精一 (1908~1986) 「落暉」 油彩 キャンバス 6P
1948年制作


原精一は、昭和12年の出征から昭和21年に復員するまでの間、ほとんどを従軍の 困難な状況下で制作活動を行った。
本作品はその2年後の制作で日の入りを描いた油彩画である。 戦争体験、抑留生活、戦後、価値観の逆転を経て作家はどの様な気持ちでこの絵を描いたのであろうか。

25 廣本季與丸 (1908~1975) 「裸婦」 



野原宏(埼玉県久喜市)

25 廣本季與丸 (1908~1975) 「裸婦」 油彩 板
39.7×31.8cm 1935年頃制作


時代を感じさせる絵です。室内の様子がそう感じさせるのでしょうか。 モデルの女性からかもしれません。私にとっては懐かしい想像の世界です。 廣本さんの画集発刊記念の回顧展でご遺族からお礼としていただいた作品です。

26 荒井龍男 (1904~1955) 「愛する人々」



野原宏(埼玉県久喜市)

26 荒井龍男 (1904~1955) 「愛する人々」 グワッシュ 紙
36.0×26.0cm 制作年不詳


荒井龍男の詩情豊かな画面構成に魅せられて、その蒐集を続けてきました。 かたちと色で表現された絵は見る人によりいろいろと解釈され理解されます。時には画家の意図するところとは異なることも多々あると思います。荒井の作品の多様性から くるのかもしれません。愛する人々が「憎しみ合う人々」だとしたらどうでしょう。
荒井龍男は戦中戦後の激動期に海外に目を向け、海外で活躍すべく野心満々の時に突 然病魔に襲われ51歳で逝去しました。

27 今西中通 (1908~1947) 「自画像」無題」



中村儀介(千葉県木更津市)

27 今西中通 (1908~1947) 「自画像」 コンテ 紙
24.0×18.0cm 1933年頃制作


今西中通は、故梅野さんより藝林でフサ像や油彩の作品など、数点見せていただいた が、キューヴというよりむしろフォーヴな印象を受けた(それらは多分かなりの若描き だったのだろうと推測される)。
また最近、野見山先生からアトリエにてフジタや金山康喜、木村忠太の話を伺った際、 ちらっと今西中通の話もされ、その時、好きなタイプの画家だと感じた。
自画像ということで小品ではあるが今西の我の強そうな感じがでている若い(25歳) 力のこもった作品だと思う。

28 今井ロヂン (1909~1994) 「バラと花瓶」

 

中井嘉文(東京都練馬区)

28 今井ロヂン (1909~1994) 「バラと花瓶」 油彩 キャンバス 6F
制作年不詳


今井さんを語るには藤田嗣治との関係を無視できません。なにしろ夏の暑い日に藤田 が自分で色を塗った自転車で今井家にやってきて奥さんにロヂンさんを1年貸してくれ と頼みに来ました。そのため、奥さんの喜久子さんはどうぞと快諾したのです。
それから藤田が渡仏の船に乗るまで真面目にお手伝いをしたのです。 今井家の子供たちも藤田の家に行っていろんな方に会ったり、絵をみたりしていたようです。今井の絵は面相筆を使うところなど藤田に似た面もあるが苦労して今井色を出 しており、特にバラと花瓶の絵は今井のバラとして知られています。
また猫の絵も有名です。

29 山谷鍈一 (1910~2007) 「フードの少女」



佐々木征(千葉県船橋市)

29 山谷鍈一 (1910~2007) 「フードの少女」 油彩 板
33.5×24.5cm 1948年制作


<フードの少女>との出会いはドラマチックである。作者特定までは苦労したが、 特定後は画家本人に会え、しかも面談の際、画家から買値の2倍でも3倍でも譲って ほしいと懇願された逸品である。画家の話しでは「戦後の生活物資が無い時代に、娘 をモデルに描いた作品で、額も手作り」とのことであった。さらに私が作品写真同封 で画家に照会した際、本人は作品に記憶がなかったが、近所に住む娘さんが、偶然こ の絵の写真を見て、モデルは私だと言ったことがきっかけで記憶が蘇ったそうである。
画題を墨書きしてくれた画家は、91歳にもかかわらず年齢を感じさせない雰囲気 があり、楽しい時間を過ごしたことが昨日のように思い出される。

30 舟越保武 (1912~2002) 「少女」



小倉敬一(埼玉県さいたま市)

30 舟越保武 (1912~2002) 「少女」 デッサン 紙
20.5×14.0cm 制作年不詳


舟越保武は、敬虔なカトリック信仰に裏打ちされた精神性と確かな造形力によって、 純度の高い具象彫刻を残した彫刻家であるが、すぐれた素描家でもあった。
この作品をじっと見ていると、少女の視線に一瞬たじろぎ、一種の戦慄さえ覚える。 それは、少女の射るような眼が永遠の時を見つめているからではないだろうか。
女の両眼の違いに、理想化されない人間としての実在感がある。この絵に存在する 聖なる精神的空間。それは、現実と空想の狭間のあやうい世界にあるのかもしれない。