41 阿部広司(1910~1992)  「風景」 



小松富士男(埼玉県久喜市)

41 阿部広司(1910~1992)  「風景」  水彩  紙  36.8×55.5cm  制作年不詳

浅間山を遠望した錦秋の風景画です。樹々の色彩が美しく呼応し澄明な山気を感じさせます。的確な技法と豊かな色彩感覚とにより表現された見事な作品です。
 画家の長女Mさんが美術の教師(後に小学校長)を勤められ、仕事の上で何かと懇意にしていただいた関係から、遺作展開催の折に頂戴したものです。Mさんお気に入りの作品が今は私の宝物として我が家に飾られています。

42 松田正平(1913~2004) 「草木成佛」



鈴木忠男(東京都江東区)

42 松田正平(1913~2004) 「草木成佛」 書  紙本 34.5×21.0cm 制作年不詳

 毎年、銀座の画廊(フォルム画廊、瞬生画廊、阿曾美術)の遺作展には見に行く。銀座の画廊(フォルム画廊、瞬生画廊、阿曾美術)で毎年開催される個展は毎回見ている。既に絵画、素描、短冊は高価で買えなかったが書は少し安く阿曾美術で01年に購入した。松田の作品はこの1点しか持っていない。十年ぶりに取り出して見ると、絵画もそうだがフォルムが狂っている(それが個性であり魅力なのだが)。「草」の冠は左にずれ「木」は「ホ」となり「成」は「戌(いぬ)」みたいだし「佛」はぶつぶつと切れている。長く千葉県市原市にアトリエを構え、晩年は山口県宇部市に住まう。その宇部市で展覧会が開催された年に亡くなった、91歳。大往生であろう。  

43 澤田文一(1949~ )  「春の風」



鈴木忠男(東京都江東区)

43 澤田文一(1949~ )  「春の風」  油彩  キャンバス  F6  1980年代制作

 中野から銀座に移転して来たブロードウェイギャラリーに通ったのは澤田の作品を蒐集するためだった。閉廊するまでに10点以上の作品(油彩、素描)を集めた、この作品は90年に購入した。自分の中で6号三部作としている「マリアマグダレナ」(赤)「春の風」(黒)「歌う女」(青)(これを始めに購入するはずだったが、1年前に予約した人から入金があり、そちらに渡ってしまった)内の1点。この絵に対峙すると、なぜか涙が出る、殆ど見えない女性の瞳を見ようとするからだろうか。澤田文一画集(素描添付の特装版もあり)を企画したくて、事業所異動で求龍堂を希望したこともあった。閉廊後は国内放浪の旅に出て消息不明だったが、今年5月銀座フォレスト(主人の森さんは、当時ブロードウェイに勤めていた)で20年ぶりの個展を開催した。アトリエ(埼玉県)には未完成の作品が大量にあり、今後も個展を続けるとのこと、この復活を喜ぶと共に現代美術コレクターにも見てもらい、メッセージを感じて欲しいものだ。またクリスチャンである澤田の教会(北海道)育ちの生い立ち話などを本人から語って欲しい。

44 須田剋太(1906-1990) 「若人」



野原 宏(埼玉県久喜市)

44 須田剋太(1906-1990) 「若人」 グアッシュ・コラージュ 紙 38.0×26.5㎝ 1989年制作

太い眉、大きな目でグッとくる迫力はこの絵の魅力です。骨太な体格とたくましい精神を持ち合わせた、エネルギッシュな青年像です。
もしもう一度戻れるならばこんな青春時代は如何かなと思います。
須田剋太は埼玉で生まれ、東京美術学校の受験にも失敗して独学で油絵をまなび、1935年光風会に初入選し、戦前戦後にかけ日展で3回特選、その後、長谷川三郎に出会い抽象作品に強く惹かれていきました。
本作は作者83歳最晩年のものです、全く死を予感させるものはありません。
この絵と向き合うことで、いろいろな事を教えられています。

4 5 菅野 陽(1919~1995)  「裸婦」



宇都宮義文(千葉県流山市)

45 菅野 陽(1919~1995)  「裸婦」  墨  紙  27.5×15.5cm  制作年不詳

{女性像: 其のⅡ-- 画面右上の書き込みのコメントが物凄い}

 目新しい題材では無いが作品に極薄い鉛筆書きでコメントが書き込んであるのでお顔を近付けて読んで下さい。但しこのコメントは作家自身が書き込んだのか否かは不明です。ヨメマスカ?

46 柳沢俊男(1948~ ) 「花A」



佐々木 征(千葉県船橋市) 
  
46 柳沢俊男(1948~ ) 「花A」  アクリル  キャンバス  F10  1991年制作
                       
 私好みの絵を見付けた。所謂、単なる綺麗に描かれた薄っぺらな写実画とは一線を画する抜群の力量である。とくにカサブランカなどの花弁の微妙な絵具の塗り方をはじめ陰影の描写は見事である。私には絵の静謐さも去ることながら品格を兼ね備えた優品と思えた。さらにこの絵からは、見る者に一抹の寂しさも与える雰囲気が感じられた。作者が何者か急ぎ調べてみたい気持ちにかられ、美術名鑑類を調べたが何処にも名前を見付けることは出来なかった。
 ここで実力を発揮するのが、今までこつこつ書き留めてきた虎の巻である。やはり探している画家は資料の中に見付かった。それは月刊美術(平成3年4月号)で特集した「個人コレクションの復権」に取上げられたフレッシュ洋画家36人の優品の中に、「彫刻で鍛えた眼、油彩にも鋭く」として掲載されていた。引き続き調べてみると、二紀会会員として彫刻部門で平成元年に安田火災美術財団秀作賞、平成4年には二紀新人選抜展奨励賞を受賞している一方で、絵画部門では平成3年第2回浅井忠記念賞展に入選、日本の絵画・新世代・1987展、1989展に出品、平成4年には「21世紀の旗手・1992展・日本の絵画」に出品するなど、彫刻、絵画の両ジャンルで実力を発揮している異色の作家であった。今回の作品は二点とも上野松坂屋を会場として数年開催された「日本の絵画・新世代展」出品作である。数年後に同じ展覧会出品作を作者不詳で入手することが出来たのも不思議な縁である。

47 柳沢俊男(1948~ ) 「花B」



佐々木 征(千葉県船橋市)

47 柳沢俊男(1948~ ) 「花B」  アクリル  キャンバス  F10   1991年制作

 この静物画は「花A」を入手してから数年後に作者不詳で入手できた。しかも入手時はキャンバスのみの裸状態であった。私は最初、「花A」の記憶が鮮明に残っていたため、この絵を見て思わず構図が似ていることが気になり、贋作ではとの思いが一瞬頭を過ぎったが、直ぐにその思いを打ち消した。何故ならば贋作者が割の合わない作者不詳状態の画家の贋物をつくるはずが無いと考えたからである。
 画家はどちらの作品も画題を「花」としているが、わの会・コレクション展に二点まとめて出品するのを機に、便宜上、画題を「花A」、「花B」として区別することにした。私が柳沢作品に強く惹かれるのは、石川確治、清水多嘉示らと同じように、彫刻家であるが絵画についても「彫刻で鍛えた眼を油彩にも鋭く」才能を発揮している点にある。私は描かれた対象物のカサブランカの角度を顧慮し、「花A」を陽、「花B」を陰として二点の静物画を比較しながら画家の考えに思いを馳せている。
 ところでこの画家については、是非知りたいと思っていることがある。それは画家の名前がどの美術名鑑類にも掲載がなく、ファンの一人としては何故掲載をしないのかその理由を知りたい。現在、本人にその理由を照会中であるが、果たしてまともに答えてくれるか否か、今から楽しみである。

4 8 澤田利一(1932~2002) 「良寛の海」

 

田部井仁市(埼玉県加須市)

48 澤田利一(1932~2002) 「良寛の海」  油彩  キャンバス  37.0×45.0cm 1998年制作

4 9 此木三紅大(1937~ )「赤い帽子の女」



田部井仁市(埼玉県加須市)

49 此木三紅大(1937~ )「赤い帽子の女」 油彩 キャンバス  33.0×41.0cm 2005年制作

50 菅原 優(1977~ ) 「誘惑」



伊とうはるこ(千葉県柏市)

50 菅原 優(1977~ ) 「誘惑」 油彩・テンペラ混合技法  キャンバス  F4 2005年制作

 菅原氏のこの作品に出会ったのは、青木画廊においてであった。
 古典技法による色彩は、おさえ気味であるが、その内容表現の多様性、独自性に驚かされる。
 文才もある菅原氏は、「恋文」という文章の中に、「僕達の正体は、ただの(肉欲に震える肉)にすぎないのではないか」といった箇所がある。
 この作品も、恋愛する男女の微妙なせつないまでの精神構造を、メカニックな頭部で表現されており、ある達観したドライさも感じられる。
 菅原氏の過去の多くの作品を、彼のホームページ等で見てみると、自己模倣を拝し、真実の形を渇望し追究しつづける若々しい眼が強く伝わってくる。